美術史におけるプロジェクションマッピングの位置づけ

プロジェクションマッピング(プロマ、PM)は、現代美術・アートの表現活動の一種です。建築物の壁などに投射する芸術作品という観点でいえば、広義には「現代版の壁画」の一つとして位置付けることができます。

特殊な視覚効果のある「壁画」

プロジェクションマッピングは、物体や建築物などに映像を流すことで、あたかも違う物体になってしまったかのような印象を与え、特殊な視覚効果を生み出すことができます。

通常のプロジェクションとの違い

通常のプロジェクションでは、プロジェクターを使い、映像やコンピューター・グラフィックスなどをスクリーンといった平面に写します。これに対して、プロジェクションマッピングでは、立体的な物体や建築物などに映像を写します。あくまで立体物に描くのが基本であり、投影の対象が建物などの壁であることが多いため、壁画の一形態といえます。

壁画アートとの共通点

プロジェクションマッピングと壁画にはどのような共通点があるのでしょうか?

額縁に入れた絵画(タブロー)や掛幅・巻物と異なる

最も顕著な共通点としては、壁画もプロジェクションマッピングも、額縁という限られたスペースを越えて、大きな画面で描かれることがあげられます。「新潮 世界美術辞典」によると、壁画とは、壁面に描いた絵画のことです。持ち運びできず、固定的でおおむね大画面である点で、額縁に入れた絵画(タブロー)や掛幅・巻物などと対蹠的(たいしょてき)です。

建築の諸部分を視覚的に分ける

歴史的にみると、壁画は主として建築や墳墓と結びついて発展してきており、天井画や柱に描かれたものも含まれ、形象を描く場合はもとより、単なる装飾の場合でも空虚な壁面を飾るだけではなく、しばしば建築の諸部分を視覚的に分節し、相互に対照させる効果も含まれています。

「平面」と「立体」の区別

また、壁画は、美的見地からは壁面の平面性を強調し維持する場合と、視覚錯覚的な空間描写により平面性を溶解する(=立体的に見せる)場合が区別されますが、プロジェクションマッピングは後者の「立体的に見せる」という部類に入ります。

壁画の歴史

旧石器時代後期に洞窟壁画が現われるように、壁画は絵画の最も古い形であり、あらゆる時代と地域にわたって広く存在します。

ローマ、ビザンティン、西欧諸国に多く残る

古代エジプトには着色薄浮彫も含めれば、豊富に残存し、メソポタミヤでもマリの壁画があります。ギリシアでもエーゲ海美術のほか、古典古代にはタソスのポリューグノートスなどの作品のあったことが文献から知られますが、遺品はヘルクラーネウムやポンペイに断片的にしか残されていません。古代や中世のキリスト教壁画の例は、ローマ、ビザンティン、西欧諸国に多く残り、ただゴシック期には、ステインド・グラスや祭壇画が現われて一時衰退します。

テンペラ、エンコースッティック、モザイク

しかしイタリアでは中世以来、引き続き行われ、ルネサンス時代に隆盛を誇りました。また近世以降にも西洋をはじめ世界各国で描かれました。壁画の技法としてはフレスコ、テンペラ、エンコースッティック、モザイクなどがあり、浮彫や中国の画像石・画像せんにも壁画に準ずるものがあります。

日本の法隆寺や板絵、障壁画も

東洋では、インドのアジャンター、アフガニスタンのバーミヤーン、中央アジアの諸遺跡、敦煌などに例があり、日本の法隆寺金堂壁画なども名高いです。ただし、日本では、板絵が壁画をなす場合があり、障壁画も一種の壁画とみなすことができるでしょう。

フレスコ画

壁画アート史において、プロジェクションマッピングと類似する表現手法の一つとして、フレスコ画が挙げられます。

フレスコ画とは

「美術史の辞典」(東信堂)によると、フレスコ画とは、壁に絵具を塗る方法の一つで、粉末の顔料を水に溶かし、まだ乾いていない新鮮な(イタリア語で Fresco)石灰のしっくいに塗ります。水に溶かした顔料がしっくいとともに固まり、そのためにフレスコ画は壁の一部となり、壁が残っているかぎりは残ります。

歴史~古代ローマ

フレスコ画には少なくともミノア期から用いられ、数多くのフレスコ画がローマの古代から残っていました。耐久性を別にすれば、フレスコ画の利点は、安価であること(いずれにせよ、ほとんどの壁がしっくいで塗られます)、しっくいの塗り直しは簡単であり、ゆえに別のフレスコ画をその上に描けること、そして、大きな壁を装飾する美術家にとって見せどころの広さです。

ルネサンス

フレスコ画には難点もいくつかあります。作業の速さと手ぎわのたしかさが求められます。というのも、いったん絵具を用いたら、それを取り除くには、その部分のしっくいを剥がす以外にありません。ほかならぬこの理由から、ルネサンスはフレスコ画を一段優れた芸術的能力の立証と考えました。色の範囲は限定されます。そして水という媒材としっくいの白さという二つの要素が、淡い色調を生み、そのために大胆なデザインが望まれます。慎重な準備が必要です。

壁(天井もしくは丸天井)には転写法を用いる

壁(天井もしくは丸天井)には転写法を用いる必要があり、原作のデザインを拡大してそこに当てはめねばなりません。この転写された下絵は、いったん最終的なしっくい層(イントナコ)が描かれれば消え失せます一成人男性と少年を分ける方法に似ていなくもありません。

<ブオン・フレスコ>

フレスコ画は、本物のフレスコ(ブオン・フレスコ)と呼ばれ、乾いたしっくい(アル・セッコ)の上に塗るという、頻繁に用いられましたが劣った技術と区別されます。その劣った方法は、テンペラかサイズ(にじみ止め)を用いるために、剥がれて落ちることがあります。

ナザレ派やラファエル前派の画家たち

フレスコ画は18世紀になるとあまり用いられなくなり、ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエーポロが、それを採用した最後の偉大なイタリア画家の一人です。そのような画家たちが用いた作業の知識は、19世紀までには消滅しており、ナザレ派やラファエル前派の画家たちが、実行可能な美術的表現手段として復活させようとしましたが、その努力は実りませんでした(「美術史の辞典」より)。

現代メディアアートの主要形態の一つ

欧州で古い歴史

壁画が盛んな欧州では、プロジェクションマッピングが現代メディアアートの主要形態の一つとして、早くから注目され始めました。「ビデオ・マッピング」や「3Dマッピング」という名称で、10年以上の歴史を持っています。

モダンアーティストに浸透

日本ではプロジェクション・マッピングという言葉が使われるようになったのは2000年代中ごろで、名称が一般的になったのは2010年代です。しかし、欧州のモダンアーティストや芸術家の間での試みとしては、もっと古い歴史があります。

より気軽に

最近では、映像ソフトやプロジェクターの技術の進歩により、アーティストや美術家、クリエイターたちにとっては新たな表現を求めることができるようになり、建物やメディアアート、舞台など、実験的にされていたものが気軽にできるようになりました。

名画ニュース(田副暢宣事務所)

「夢の次世代テレビ」とうたわれているハイビジョンが、美術界の熱い視線を集めている。「スペースが足りず展示できなかった収蔵作品も見せられる」「鮮明な画面で世界の名画を鑑賞できる」と、新しい展示の手段として導入する美術館がこのところ増えているのだ。拡大などの技術を駆使したハイビジョン番組も、学芸員らの企画で次々にお目見え。こうした動きにこたえて、通産省は来年2月、全国から番組を集めて市民や専門家に広く鑑賞してもらう「ハイビジョンギャラリー」月間を開催する。(田副暢宣事務所、1990.12.27)